国産松茸を年に一度はご家庭で!

煙草の虫取り

 むかし、露藤村に佐兵次という男がいたど。今でも奇想天外なことしたり、言ったりする人を「佐兵のようだ」といっているが、しかしこの男はひょうきんだばかりでなく、村の女子衆さ機織り教えたり、四反もある田を一人で植え終わるほどの腕持っていたど。
 ある夏のことだ。笹野村の金持ちをたずねたど。
「旦那、こんにちは」
 手不足でテンテコ舞いしている時だから、
「おお佐兵さんか、ようござった」
と、愛想よく迎えたど。
「いまな、ごらんの通り、煙草の虫取りで猫の手も借りたいほど忙しいんだ。お前さんも畑に行ってみて呉れないか」
「ああ、いいとも、旦那のことだもの」
と、二つ返事で引受けたど。
「そいつぁありがたい。そんじゃ帰ってからうんと御馳走すっから・・・」
と、虫入れ籠を差出して、お茶一服飲めともいわないがったど。佐兵は、「評判の慾張りだな」と思ったが、色にも出さねで、気軽に出かけたど。
 畑さ着くと、着てきたミノを畑に敷き、ゴロリと横になったど。下から見上っど、背丈ほど伸びた幹さ、登る虫、降る虫、また青い葉をバリバリ食い荒らすもの、かぞえ切れない虫の大群だったど。一匹づつつまんで籠さ入れるむかしのこと、なかなか容易でない。
 お昼になったので、ノコノコ起き上がり、旦那の家で腹いっぱい食って、また畑さもどってゴロリと横になるのだったど。
 夕刻を見はからって、帰って行くと、この忙しいときに、評判の佐兵さんが、一日ただで働いて呉れたかと、旦那は大喜びだったど。
「さあさあ、何もないげんども、あがり酒一つ」
と、ニコニコ進めるのだったど。遠慮なく御馳走になんべと思ったとき、
「ときに虫をどれだけ取ってくれたかな」
と旦那が聞いたど。
「虫など一匹も取らないんだぜえ」
「冗談じゃない、一日なにしていたんだ」
と怒鳴っど、
「行ってくれというから、一日見ていたが、登り降りはするし、葉に穴をあけるし、大そう面白かった」
と、けろっとして答えたど。
「お前さんにゃかなわない。ではこれを投げて来しゃれ」
と、きょう取らせた虫の籠を差し出すと、
「はいっ」
と、威勢よく出かけたど。
「しまった。虫だけ投げろというんだった」
と気付いたときは後のまつりだったど。

煙草の虫取り